アルテニルの風 〜青い瞳の少女〜 現実と異世界のはざまに

異世界に転移してしまったどこにでもいる平凡な高校生「成瀬 航」。
そしてその異世界に生きる、同級生の「富永 遥香」にそっくりな少女「イルサ」。
これは、航が異世界転移してしまう以前の物語である。

 

20話 大切な思い出 中編

ある秋の日の午後、航は授業中にボンヤリと窓の外を眺めていた。

「今日も彼女、頑張ってるんだな」
彼女というのは、そう、航が片思いしている同学年の「富永 遥香」だ。部活の練習なのか、グラウンドを走る女子たちの中に彼女がいた。

「あー、なんてカワイイんだろう。なんて言うかこう、彼女を見てると愛しい気持ちになるんだよな...」

「富永 遥香」は長めのボブカットで活発な感じがする女の子だ、それにスタイルも抜群なのだ。
退屈な学生生活の中で、航が唯一楽しみにしているのは彼女に会える事だった、まぁ、会うといっても遠くから彼女を見ているだけなのだが。

「おいっ!成瀬!!先生の話を聞いてるのかっ!!」

ガタンッ
航は反射的に立ち上がった。

「あ、は、はいっ!ちゃんと聞いてますっ!!」
「じゃあ、先生が今話してた事を言ってみろ!」
航は教室内をキョロキョロ見回しながら、
「えっと、あの、あれです、相対性理論がどうとか?物体は速く移動すると縮むとかなんとか?」

すると、教室内がざわめいた。

「おまえなぁ、俺は物理じゃなく数学の教師だぞ!す・う・が・く・だっ!!まったく!お前はいつもボーッとして何を考えてるんだ!」

航はあたふたしながら、
「すっ、すいません!!」

アハハッ
ワハハッ
航はクラスのみんなから笑われてしまった。

航は細身でスタイルが良く、イケメンとまではいかないが顔は普通、スポーツは万能、成績は中の下、そして、先生によく怒られる。
そんな航はある意味クラスの有名人だった。

その日の放課後、航は帰り支度を済ませて廊下を歩いていた。

「おい!ワタルっ!一緒に帰ろうぜ!」
そう声を掛けてきたのは隣のクラスの、親友「中村 翔平」だった。

「わざわざ言わなくても帰り道一緒じゃん」
「まぁ、そうなんだけどな」
2人はバスに乗る為、学校を出て大通りへと向かった。

バス停に着くと、航は時刻表を見てみた。
「あーあ、バスが行ったばかりだよ」
どれどれ、という感じで翔平も覗き込む。
「うん、次のバスは15分後か」
2人はバスの時刻をあまり深く考えず、来たら乗ればいいかくらいに考えていた。何故なら、地元まで40分ほど掛かるが、若い2人には、決して歩いて帰れない距離ではないからだ、それに2人はまだ高校生だ、人生の時間もたっぷりと残されている。

「歩くか、で、ちょうどバスが来たら乗ればいいしさ、それに天気もいいぜ」
翔平が空を見上げながら言った。
「そうだね、そうしよう」
航はそう言ってとっとと歩き出した。
「おい、まてよっ!ワタル、おまえ歩くの早いよな」
「ん、そう?」
「うん、オレも歩くの早い方だけど、そのオレが追いつかないからさ」

大人4人分ほどの幅がある歩道を、2人は陽が沈みゆく方へと歩いた。季節は秋、昼間はポカポカと暖かいが、陽が沈み始めると少しだけ寒くなる。

「ワタル、そういやお前が言ってた子、「富永 遥香」さんだっけ?放課後に校庭で見たぜ」
「うん、部活やってたよ」
「じゃあ、あれは片付けしてたんだな。陸上部か何かかな?あれだけじゃわからないな」
「うん、オレが見たときはグラウンドを走ってたよ」
翔平は、ふーんと鼻を鳴らすようにして言った。
「よし、オレに任せろ!調べておくぜ!!」

次の日の朝、木枯らしが吹く中を航と翔平は一緒に登校していた。学校に着くと校門付近は登校してきた生徒たちで賑わっている。

そんな中、今時の高校生らしく、少し短めのスカートの女子たちが航と翔平の前を通り過ぎて行った。

「おい、今の子、感じからして黒かピンクだな」
翔平がジロジロ見ながら言った。
「うーん、普通に白じゃないかな?」
航が冷静に分析したように答える。
思春期の男子らしく、航と翔平は朝からそんな会話をしていた。

「まぁ、オレは富永さん以外に興味ないからな」
「ほんとかよっ、今おまえガン見してなかったか?」
翔平は冷やかすように言う。
「翔平だってジロジロ見てたじゃんかっ」

「そういや話変わるけどさ、昨日帰ってから友達と電話してたんだ、「杉田」っていうヤツなんだけど、彼女と同じクラスなんだよ」
「うん」
「で、聞いてみたぜ」
なにを?と言いかけてその事を思い出した航は、
「ああ、部活のこと?」
「そうそう、なんと彼女、バトミントン部だってさ」
翔平は調べた情報を自慢げに話した。

「バトミントン部か、走ってたからてっきり陸上部かと思ってたよ」
「うん、オレが見た時は校庭で片付けしてたからさ、まさかバトミントン部とはな、あれは他の部活の片付けを手伝ってたんだな」

その時、立ち止まっていた航たちを数人の女子が追い抜いていった。

「あはは、そうなんだっ」
「うんうん、それでねー」
「それってメッチャすごくない?」

シャンプーの匂いだろうか、いい香りとともにそんな会話が聞こえてきた。

航は一瞬ドキッと心臓が止まるかと思った。
そう、目の前を通り過ぎて行った女子たちの中に「富永 遥香」がいたのだ。

「おい、ワタルっ!今の真ん中にいたのって彼女じゃないか⁉︎」
翔平も彼女に気付いたようだった。

黒髪に少し長めのボブカットがリボンの付いた制服によく似合っている。
「うん、富永さんだ、今ちょっと目が合ったような気がする」
「おいおい、それは気のせいだろっ?相手にされてないぜ!」
そう言って翔平は何かを思い出したように、
「そうだっ、昨日「杉田」が言ってたんだけど、彼女メチャクチャ人気あるみたいだぜ、先輩なんかからも声掛けられてるんだって」

それを聞いた航は、とくに驚きもせず、
「まぁ、そうだろうな、彼女可愛いもん、周りがほっとかないだろうな」
「だな、諦めるか?ワタル」
「...そうだな、って!まだ何もしてないじゃんかっ!」
「オレはお前のためを思ってだな、無謀な事はやめておけと」
翔平は神妙な面持ちながら、冷やかすように言った。

「そういう翔平はどうなんだよっ?気になってる茶髪っぽい感じの人は?」
フーッと翔平はため息をつくと、
「それがな、彼女には中学から付き合ってる彼氏がいるらしい...」
「もしかしてお前、告ったの?」
「うむ、見事に撃沈した」
「そうか、かなしいな友よ...」
航は翔平の肩を叩きながら言った。
「お前だけはわかってくれるか」

「しかし、いつも思うけど、翔平のその行動力はどこから出てくるんだ?」
「はは、自慢じゃないが、考える前に行動するのがオレの持ち味だっ」
「そっか」
「だからこそな、お前には幸せになって欲しいんだよっ」
今度は翔平が航の肩に手を置いて言った。
航はしばらく考えていたが、
「オレは翔平と違って意外と完璧主義なんだよ、だから、確実にいい返事を貰える状況にならないと行動に出ないぞ」
「そうだな、それにまだ話した事もないんだろ?」
「ああ」
「まずは一度、声掛けてみろよ、今のままじゃ、向こうはお前の存在すら知らないんだぜ?」

その時、授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。
「やばっ!そろそろ行かないと遅刻だっ」
「もうこんな時間かよっ、急げっ!」

そして、月日は流れて航たちは2年生になっていた。

 

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