アルテニルの風 〜青い瞳の少女〜 現実と異世界のはざまに

異世界に転移してしまったどこにでもいる平凡な高校生「成瀬 航」。
そしてその異世界に生きる、同級生の「富永 遥香」にそっくりな少女「イルサ」。
これは、航が異世界転移してしまう以前の物語である。

 

20話 大切な思い出 中編

ある秋の日の午後、航は授業中にボンヤリと窓の外を眺めていた。

「今日も彼女、頑張ってるんだな」
彼女というのは、そう、航が片思いしている同学年の「富永 遥香」だ。部活の練習なのか、グラウンドを走る女子たちの中に彼女がいた。

「あー、なんてカワイイんだろう。なんて言うかこう、彼女を見てると愛しい気持ちになるんだよな...」

「富永 遥香」は長めのボブカットで活発な感じがする女の子だ、それにスタイルも抜群なのだ。
退屈な学生生活の中で、航が唯一楽しみにしているのは彼女に会える事だった、まぁ、会うといっても遠くから彼女を見ているだけなのだが。

「おいっ!成瀬!!先生の話を聞いてるのかっ!!」

ガタンッ
航は反射的に立ち上がった。

「あ、は、はいっ!ちゃんと聞いてますっ!!」
「じゃあ、先生が今話してた事を言ってみろ!」
航は教室内をキョロキョロ見回しながら、
「えっと、あの、あれです、相対性理論がどうとか?物体は速く移動すると縮むとかなんとか?」

すると、教室内がざわめいた。

「おまえなぁ、俺は物理じゃなく数学の教師だぞ!す・う・が・く・だっ!!まったく!お前はいつもボーッとして何を考えてるんだ!」

航はあたふたしながら、
「すっ、すいません!!」

アハハッ
ワハハッ
航はクラスのみんなから笑われてしまった。

航は細身でスタイルが良く、イケメンとまではいかないが顔は普通、スポーツは万能、成績は中の下、そして、先生によく怒られる。
そんな航はある意味クラスの有名人だった。

その日の放課後、航は帰り支度を済ませて廊下を歩いていた。

「おい!ワタルっ!一緒に帰ろうぜ!」
そう声を掛けてきたのは隣のクラスの、親友「中村 翔平」だった。

「わざわざ言わなくても帰り道一緒じゃん」
「まぁ、そうなんだけどな」
2人はバスに乗る為、学校を出て大通りへと向かった。

バス停に着くと、航は時刻表を見てみた。
「あーあ、バスが行ったばかりだよ」
どれどれ、という感じで翔平も覗き込む。
「うん、次のバスは15分後か」
2人はバスの時刻をあまり深く考えず、来たら乗ればいいかくらいに考えていた。何故なら、地元まで40分ほど掛かるが、若い2人には、決して歩いて帰れない距離ではないからだ、それに2人はまだ高校生だ、人生の時間もたっぷりと残されている。

「歩くか、で、ちょうどバスが来たら乗ればいいしさ、それに天気もいいぜ」
翔平が空を見上げながら言った。
「そうだね、そうしよう」
航はそう言ってとっとと歩き出した。
「おい、まてよっ!ワタル、おまえ歩くの早いよな」
「ん、そう?」
「うん、オレも歩くの早い方だけど、そのオレが追いつかないからさ」

大人4人分ほどの幅がある歩道を、2人は陽が沈みゆく方へと歩いた。季節は秋、昼間はポカポカと暖かいが、陽が沈み始めると少しだけ寒くなる。

「ワタル、そういやお前が言ってた子、「富永 遥香」さんだっけ?放課後に校庭で見たぜ」
「うん、部活やってたよ」
「じゃあ、あれは片付けしてたんだな。陸上部か何かかな?あれだけじゃわからないな」
「うん、オレが見たときはグラウンドを走ってたよ」
翔平は、ふーんと鼻を鳴らすようにして言った。
「よし、オレに任せろ!調べておくぜ!!」

次の日の朝、木枯らしが吹く中を航と翔平は一緒に登校していた。学校に着くと校門付近は登校してきた生徒たちで賑わっている。

そんな中、今時の高校生らしく、少し短めのスカートの女子たちが航と翔平の前を通り過ぎて行った。

「おい、今の子、感じからして黒かピンクだな」
翔平がジロジロ見ながら言った。
「うーん、普通に白じゃないかな?」
航が冷静に分析したように答える。
思春期の男子らしく、航と翔平は朝からそんな会話をしていた。

「まぁ、オレは富永さん以外に興味ないからな」
「ほんとかよっ、今おまえガン見してなかったか?」
翔平は冷やかすように言う。
「翔平だってジロジロ見てたじゃんかっ」

「そういや話変わるけどさ、昨日帰ってから友達と電話してたんだ、「杉田」っていうヤツなんだけど、彼女と同じクラスなんだよ」
「うん」
「で、聞いてみたぜ」
なにを?と言いかけてその事を思い出した航は、
「ああ、部活のこと?」
「そうそう、なんと彼女、バトミントン部だってさ」
翔平は調べた情報を自慢げに話した。

「バトミントン部か、走ってたからてっきり陸上部かと思ってたよ」
「うん、オレが見た時は校庭で片付けしてたからさ、まさかバトミントン部とはな、あれは他の部活の片付けを手伝ってたんだな」

その時、立ち止まっていた航たちを数人の女子が追い抜いていった。

「あはは、そうなんだっ」
「うんうん、それでねー」
「それってメッチャすごくない?」

シャンプーの匂いだろうか、いい香りとともにそんな会話が聞こえてきた。

航は一瞬ドキッと心臓が止まるかと思った。
そう、目の前を通り過ぎて行った女子たちの中に「富永 遥香」がいたのだ。

「おい、ワタルっ!今の真ん中にいたのって彼女じゃないか⁉︎」
翔平も彼女に気付いたようだった。

黒髪に少し長めのボブカットがリボンの付いた制服によく似合っている。
「うん、富永さんだ、今ちょっと目が合ったような気がする」
「おいおい、それは気のせいだろっ?相手にされてないぜ!」
そう言って翔平は何かを思い出したように、
「そうだっ、昨日「杉田」が言ってたんだけど、彼女メチャクチャ人気あるみたいだぜ、先輩なんかからも声掛けられてるんだって」

それを聞いた航は、とくに驚きもせず、
「まぁ、そうだろうな、彼女可愛いもん、周りがほっとかないだろうな」
「だな、諦めるか?ワタル」
「...そうだな、って!まだ何もしてないじゃんかっ!」
「オレはお前のためを思ってだな、無謀な事はやめておけと」
翔平は神妙な面持ちながら、冷やかすように言った。

「そういう翔平はどうなんだよっ?気になってる茶髪っぽい感じの人は?」
フーッと翔平はため息をつくと、
「それがな、彼女には中学から付き合ってる彼氏がいるらしい...」
「もしかしてお前、告ったの?」
「うむ、見事に撃沈した」
「そうか、かなしいな友よ...」
航は翔平の肩を叩きながら言った。
「お前だけはわかってくれるか」

「しかし、いつも思うけど、翔平のその行動力はどこから出てくるんだ?」
「はは、自慢じゃないが、考える前に行動するのがオレの持ち味だっ」
「そっか」
「だからこそな、お前には幸せになって欲しいんだよっ」
今度は翔平が航の肩に手を置いて言った。
航はしばらく考えていたが、
「オレは翔平と違って意外と完璧主義なんだよ、だから、確実にいい返事を貰える状況にならないと行動に出ないぞ」
「そうだな、それにまだ話した事もないんだろ?」
「ああ」
「まずは一度、声掛けてみろよ、今のままじゃ、向こうはお前の存在すら知らないんだぜ?」

その時、授業の始まりを告げるチャイムが鳴った。
「やばっ!そろそろ行かないと遅刻だっ」
「もうこんな時間かよっ、急げっ!」

そして、月日は流れて航たちは2年生になっていた。

 

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アルテニルの風 〜青い瞳の少女〜 現実と異世界のはざまに

ご覧下さりありがとうございます。

書き溜めている小説を公開しています。

 

まだ連載中ですが、「アルテニルの風 〜青い瞳の少女〜 現実と異世界のはざまに」は、ゲーム好きの方にはヒットする作品なのではないかと思います。

 

航が淡い恋心を抱いていた現実世界のクラスメイト、「富永 遥香」にそっくりな、異世界を生きる「青い瞳の少女イルサ」

航とイルサのこの後の展開にご期待ください。

 

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アルテニルの風 〜青い瞳の少女〜 現実と異世界のはざまに

これは、航が異世界に転移してしまう以前の物語だ。
航はどこにでもいるような普通の高校生だった。そう、あの夢を見るまでは...。

 

19話 大切な思い出 前編

都立高校に通う一年生の「成瀬 航」には親友がいる。それは、同じ中学校から進学した「中村 翔平」。

2人は入学してから同じクラスになった。

「おいっ!ワタル!!明日休みじゃん⁉︎今日晩飯食いに行こうぜっ!」
そう言ったのは航の親友である翔平だ。

航は幼い頃に母を亡くしていた、兄弟はいないから今は父と2人で暮らしている。その父はというと、いつも仕事からまっすぐ帰らずに飲み歩いているのだ。

「いいよ、今日はバイトもないし、どうせオヤジも夜遅くに帰ってくるから」
翔平はふーん、と鼻を鳴らすようにして、
「おまえのオヤジさん、まだ飲み歩いてるのか...」
「うん、相変わらずだよ」

その日学校から帰ると、航は着替えを済ませてから家を出た。バスに乗り駅へ向かうと、今度は二駅の距離を電車に乗った。翔平とは〇〇駅の改札で待ち合わせをしているからだ。

改札を抜けると、先に着いていた翔平が手をあげて合図した。
「おーい、こっちだっ!」
「おうっ」

2人は歩きながら話していた。
「どうするか?〇〇屋にする?安いし」
何を食べようか翔平が尋ねる。
「ああ、それでもいいよ」
「よしっ!決まりだなっ!!俺は特盛りにしようっ!!」

店に着いて2人は注文を済ませると、翔平が先に口を開いた。
「そういや、おまえはRPGばっかやってるけど、たまにはFPSもやろうぜっ?」
そう、2人はゲーム友達でもあるのだ。
「うーん、オレは撃ち合いの操作があんまり上手くないからなぁ...。すぐやられちゃうんだよ」
航はどちらかというと、ステータス画面を開いてじっくりと考えるゲームが好きだった。

『お待たせしました、ごゆっくりどうぞ』

食事が運ばれてくると、翔平は男らしくガツガツと食べ始めた。
「そういやさ、隣のクラスにすっげえ可愛い子がいるの知ってるか⁉︎」

翔平とは対照的に、航は椅子を引いて背筋を伸ばし、静かにゆっくりと食べている、それに橋の持ち方も綺麗だった。
意外だが、父親が躾に厳しかったのだ。母親がいないからこそ、人様に見られても恥ずかしくないよう、最低限の躾はされてきたのだろう。
男の子だから多少のイタズラや、ケンカだってするかも知れない、だが、人様の物を盗んだり、人としてやってはいけない事は厳しく教えられてきた。それに、自分がされて嫌な事は他人にもするなと。

もう一つ、父の教えの中で航が印象に残っている事があった。

それは...。

「女の子には優しくしろとっ!!!」

その父親は毎日飲み歩いているのだが...。

「可愛い子?どんな感じの?」
「うん、地毛なのか分からないけど、少し茶色っぽい髪で長めのストレートで」
航は少し考えていたが、
「オレが可愛いなって思ってる子はその人じゃないな」
「まあ、人それぞれタイプがあるしな、それよりどんな子だっ⁉」
「うん、この前教室から何気なく校庭を見てたんだよ、そしたら女子がラジオ体操しててさ」
航は少し勿体ぶって言った。
「ワタル!早く先を聞かせろよっ」
翔平は身を乗り出すように航を急かした。
「うん、目鼻立ちの整った子で髪型は長めのボブカットだった。身長は160センチないくらいかな?そうだな、158センチくらいだと思う」
翔平は興味津々に聞いていたが、
「そうか、今度気にして見てみるよ」

 

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アルテニルの風 〜青い瞳の少女〜 現実と異世界のはざまに

18話 雨の中の戦い

「さすがにこんな嵐の夜に出発する訳にはいかないだろう」
自慢の戦斧を肩に担いだドワーフが言った。
そのドワーフの戦士は、バイキングヘルムと、鉄の板を重ね合わせた重そうなヨロイで身を固めている。

暖炉では燃え盛る炎が勢いを増していた。
「そうね、今夜は宿をとって明日の朝出発する事にするわ」
カウンターの椅子に腰かけたイルサは、テーブルの傍に立つドワーフに言った。

「まだ名乗ってなかったな、オレは「ホルガー」だ、この地から遥か北にあるヘルゲル地方から来た」
ドワーフはテーブルの椅子に腰掛けると近くに戦斧を立て掛けた。
「私はイルサ、この子はシャル」
イルサは自分と、肩に座っている「妖精のシャル」を紹介した。

イルサはカウンターに向き直ると、
「ねぇ、おじさん、この村で武器を買える所はない?」
イルサは店の主人に尋ねた。
「朝になれば村の入り口近くにある雑貨屋が開くはずだ、そこでは、武器や防具だけではなく、旅に必要な色々な物が手に入るだろう」
「そう、ありがとう。じゃあ、朝になったらそこに行ってみるわ」

「オレは朝までこの店で飲むつもりだ、明日の朝、村の入り口で会おう」
そう言うとドワーフは、グラスに入ったエールを一気に飲み干した。

ギイィ
外はさっきよりも雨脚が強まっていた。
ザーッ!

「うわぁ、すごい雨だね、イルサっ」
しばらく黙っていたシャルが口を開いた。
「うん、急ごう。そこの路地を東へ行くと宿屋があるって」
店を出ると、雨の中をイルサは駆け出した!

そしてしばらくすると、路地を急いでいたイルサは突然立ち止まった。
「はあっ、はあっ...。え?これはなに?」
イルサの首飾りが突然温かく光り出したのだ。
温かく光る宝石に、イルサの肩に乗った「妖精のシャル」が興味深そうにしている。
「あの大っきな怪物を倒した時は、もっと凄い光だったよね?」
「うん、あの時は、この石が私を助けてくれた。でも、今はあの時と違う、何かを伝えたいみたい...。」

シャルが言った大きな怪物とは、単眼の巨人、サイクロプスの事である。(二章、巨大な姿、新たな力参照)

ザザーッ
降り頻る雨粒が視界を煙らせる。

その時、石畳の道を、前方からゆっくりと近付いてくる人影があった。
「イルサ、向こうから誰か来るよ」
妖精のシャルが、先に人影に気付いた。
「こんな嵐の夜に誰かしら?」
そう言いながら、イルサは雨で濡れた顔を手で拭った。

ゴーッ!ビューッ!!
街路樹のように植えられた南国の木が、折れそうなほどしなっている。

バリバリバリッ!!
すぐ近くの空に雷鳴が走った!
村の中が一瞬光に包まれると、近づいてくる人物には見覚えがあった。
無精髭を生やし、鉄の兜を被ったその男は、イルサ達が村に着いた時に迎え入れてくれた門番だったのだ。
「あの人は、私達を村に入れてくれた人だわ」
しかし、よく見ると、顔は苦痛に歪み、胸にポッカリと空いた穴から流れ出た血が、雨に洗われていた。
「いったい何が起こったの!?」
「あわわっ」
怖がりなシャルが、イルサの肩の上でたじろいだ。

その「門番であった筈の男」は、ゆっくりとイルサ達に近づいてくる...。
そして立ち止まった。

すると、いきなり体が痙攣を始めたかと思うと、続けて両腕が破裂した!!そして腕の骨が剥き出しなると、それは奇妙なノコギリのような形に変形する...!!
グギギギッ!ガチャンッ!シュイーンッ!!!

「...なんなの...!?」
予想だにしない出来事にイルサは驚愕した!
それを見たシャルが叫んだ!
「機械だっ!イルサっ!あれは機械だよ!!」
「キカイ...?」

シュン!シュン!シュシュシュッ!!
奇妙な音をあげて、今はもう「人ではない存在」の腕が凶器のように動き出した。

もう「怪物」と言った方がいいだろう。その怪物がいきなり襲い掛かってくる!!

その攻撃をイルサは体を捻って紙一重の所でかわした!!

しかしっ!

避けたはずの怪物の攻撃が、イルサの革の胸当てをえぐり、そしてチュニックを引き裂いたっ!!
「あっ...」
引き裂かれたチュニックが、イルサの白く繊細な胸元を露(あらわ)わにする!!

「イルサっ!!」
振り落とされないよう、イルサの肩に掴まっていたシャルが叫んだ!!
「大丈夫、でも、よけたはずなのにどうして...?」

怪物は両腕を奇妙に動かしじりじりと近づいてくる。

「くっ!」
イルサは戦うための武器を持っていない、反撃するすべがないのだっ!

「イルサっ!ヤバいよっ!!」
肩に掴まっているシャルが叫ぶ!
村の中を逃げ回れば、騒ぎに気付いた村人に被害が出るかもしれない。だから、イルサには逃げるという選択肢はなかった。
「シャル、大丈夫よ、なんとか倒して見せる」

ゴオーッ!ザーッ!!
ゴロゴロゴロッ!...バリバリバリッ!!
風がうなり、雨が打ちつけ、空が襲い掛かる!

そんな中、怪物は腕を高く振り上げると、その腕をイルサに投げるようにして攻撃してきた!
ビュンッ!カシャン!
機械の腕が伸びながら、刃の部分が左右に変形するのをイルサはハッキリと見た!
今度はそれを完全に見切ったイルサは、後方に宙返りしてそれをかわした!!

「避けるばかりじゃキリがないわ、何かいい方法はない...?」
石畳に膝をつきながら、イルサは自分に問いかけるように考えた。

ザザーッ!
横殴りに降り続く雨が激しさを増している。

「雨と風の中でも使えるのかどうか?...でもやってみるしかない」

イルサは改めて怪物と対峙すると、少しずつ前に出ながら相手を睨みつけた。そして、青く澄んだ瞳が漆黒に変わり、雨に濡れた艶やかな髪が逆立つと、今度は尖った耳が現れた。
「戦闘モード」のイルサが、特殊能力であるスキル「イージス」を展開させると、怪物との間にぼんやりと1フィートほどの幻影が出現した。
降り頻る雨の中、その幻影は徐々に大きさを変え、やがて、イルサにそっくりな姿に変化してゆく。
そう、イルサは「イージス」がさらに強化されたスキル、「ニュクスイルシー」を発動したのだ。

そこに機械の腕が攻撃を仕掛けてきた!!

同時に、幻影と重なりながら走り出したイルサは、その攻撃をよけ、怪物の後方に跳躍する!そしてイルサが残像のように残した幻影は、そのまま怪物に飛び掛かった!!

シュイーンッ!!
「イルサの幻影」は襲い来る怪物の攻撃をすり抜けると、そのまま距離を詰める!!

次の瞬間、

ズシュッ!!!
なんとっ!「幻影の手刀」が怪物の首をはねたのだ!!

ドサッ!
絶命した怪物が、雨で濡れた石畳に倒れた。
そして、鉄の兜を被ったままの顔が止まる事なく転がりながら、近くを流れる川に落ちていった。

シュン、シュン、シュンッ!!
イルサは知る由もないが、顔のない死体にはまだ微量な電気が流れているのか、ノコギリ状の腕だけが不気味に動き続けていた。

「なんて奇妙なの...⁉︎」
イルサは倒した怪物を見下ろしながら言った。
「最初はびっくりしたけど、イルサの敵じゃなかったねっ!」
イルサの肩ではシャルが濡れた羽を休めている。

ザザーッ!
相も変わらず嵐の夜は続いていた。

「先を急ぎましょう」

イルサは濡れた髪をかきあげる。

イルサが首から下げた宝石が光を放ち続けている。それは、すぐそこの何かに呼び掛けているようだった。

 

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アルテニルの風 〜青い瞳の少女〜 現実と異世界のはざまに

17話 闇に蠢く

外では降り続く雨が激しさを増していた。まもなく夜の嵐がやって来るのだろう。

建物の角を曲がるとライハルトは立ち止まり、付けてきている人物を待った。そして航は物陰に隠れた。

一定の距離を置いて付けていた男は、二人を見失わないように建物の角へと急いだ。そして身を屈めて角から覗くと。

そこには自分を見下ろす戦士がいた。

「オレ達になにか用か?」
ライハルトが当たり前のような言葉を相手に投げかけた。

小柄な、いかにも盗賊らしき男は、突然、目の前に現れた戦士に動揺を隠せなかった。
「あ、いや、道に迷っちまって」
「この村は初めてか?」
「ああ、今来たところだ」
男は辺りを見回しながら言った。
ライハルトは男を見下ろしたまま、
「ほう、一時ほど前に酒場で会わなかったか?」
「...」
盗賊らしき男はライハルトの鋭い眼光から逃れる事ができない。
その時、物陰からワタルが出て来ると、男の視線が航の首から下げた宝石に動いた。
(この男の目的はやはり...)

ライハルトは剣を抜き、男の喉元に突きつけた。

「...ヒッ...。や、やめろ!」

「お前、宝石について何を知っている?」
男は何かに怯えていたが、喉元に剣を突き付けられているからではないようだった。
「どうなんだ?何を知っている?」
ライハルトが更に続ける。
「し、知らないっ!オレは何も知らないっ!!
「そうか、ではオレ達の前から消えろ」
そう言ってライハルトは振り返ると歩き出した。

その時、背を向けたライハルトに盗賊が短刀で襲いかかった!
『バカめ!死ね!!』
相手の攻撃を予想していたライハルトは、振り向きざまに小手を付けた左腕で薙ぎ払った!!

ゴキッ
その音は盗賊の攻撃が届くより先に、相手の首が折れた音だった!
ドサッ!
盗賊は声を発する事なくその場で崩折れた。
ライハルトは歴戦の戦士だ、盗賊の不意打ちなどでやられる筈はなかった。

うわぁ!
この時、航は初めて人を殺すところを見た。盗賊の首が、振り向くはずのない方向へ曲がってしまっているのだ。その光景を見た航は思わず尻餅をついてしまった。

ふと、ライハルトは背後に異様な気配を感じて振り返った。いや、気配と言うよりは殺気だった。と同時に、何かが凄まじい勢いで襲いかかると、振り返ったライハルトの目の前を強烈な冷気が駆け抜けていった!!

な、なんだと!!!
ライハルトは必死に気配の主を探した。すると嵐の中、建物の屋根に何かを見つけた。
それは、すらっと背の高い美しい姿をしているが、あきらかに人ではない事が分かった。
暗闇の中、遠くの空に稲妻が走った!その一瞬の光がその存在を明らかにしたのだ。

それは、蒼白く血の通わない顔に赤い瞳、そして口元には牙があった。

ま、まさかあれは...!何故あんなヤツが村の中にいるんだ!?

尻餅をついていた航もその存在に気が付いた。
「ライハルトさん!あ、あれは!?」
ライハルトは激しい雨の中、汗ばむ手で剣の柄を握り直した。
「あれは...ヴァンパイアだ。それもかなり上級のヤツだぞ」
「ヴァンパイア!?美女の生き血をすするとかいうあの吸血鬼...!?」
ライハルトほどの歴戦の戦士でも、上級の吸血鬼が相手では命を落とすかも知れない。ライハルトはヴァンパイアから目を離さずに言った。
「生き血だけではないさ、人を頭から丸ごと食らうぞ」

と、その時、ライハルトは再び背後に気配を感じて振り返った!
なんと!そこにはさっき倒したはずの盗賊が立っているではないか!!身体はこちら側を向いているが、首の骨が折れたままの顔は後ろを向いている!

な、なんと!!操られたか!!
ライハルトは対角線上に向き直り、双方の攻撃に備えた。

「ちょっ!今度はなんなんだよ!!さっき死んだはずなのに⁉いっ、生き返った...?」
航は尻餅をつきながら後ずさった。

そこへ騒ぎを聞きつけた村の門番が駆けつけて来た。
「な、なんだこいつは!?」
槍を持った門番が悲鳴のような声をあげた!

ライハルトはチラリと門番に視線を移して言った。
「おい!気を付けろよ、そいつは見た目以上に腕力があるぞ」
続けてライハルトは航に言った。
「お前も戦え、そいつはもう人間ではない。どうだ?オークを倒した時の殺気を見せてみろ」

そう言われて航は立ち上がって弓を構えた。
「そうだ、やらなきゃやられる...」
「お前は門番と2人でその盗賊を始末しろ。オレはヤツをやる」
そう言って屋根に視線を移すと、いつの間にかヴァンパイアは姿を消していた。

何処へ行った!?

そう思った時、槍を構えた門番の背後で、捻れた空間から爪の長い二本の手が現れた!それはそのまま空間をこじ開け、今度は蒼白く赤い眼に牙がある顔が出現した!!
そう、屋根の上にいたあのヴァンパイアだった!

「おいっ!逃げろ!!」
ライハルトが門番に向かって叫んだ!
屋根にいたヴァンパイアの存在を知らなかった門番は盗賊と対峙していた。だから、何事かと戦士に視線を向けた。
「ん?なんだ!?」
ザシュッ!
その時、ヴァンパイアの腕が背後から門番の心臓を貫いた!!
ドサッ
その一撃で門番は絶命した。

「ちっ!」
ライハルトは剣を構えながらヴァンパイアに突進すると、そのまま水平に薙ぎ払った!!
〈ごおっ!!!〉
大気を切り裂くその一撃を、ヴァンパイアは身軽にかわすと再び屋根の上に降り立った!

もう人ではない盗賊は、不気味に蠢きながら獲物を探している。

航は素早く建物の陰に隠れていた、そっと角から覗き込み、「アドベンチャーボウ」を構えて盗賊に狙いを定める...!

右へ左へと不気味に蠢く盗賊が一瞬動きを止めた。
「風は右から...。よし、そのまま動くなよ...」

ビュッ!
ドスッ!!
航の放った矢が見事に盗賊の身体を貫いた!!
ドサッ
崩折れた盗賊はピクピクッと痙攣している。
「や、やった!倒したぞっ!」

「おい!!何をしてるっ!早くトドメを刺せ!!!」
吸血鬼と対峙しているライハルトが振り返り叫んだ!!!

「え...?」

倒れていたはずの盗賊がビクンッと動くと、それは「顔が逆さのまま、四つん這いの状態」で、蜘蛛のような動きをして航に襲い掛かってきた!!

うわーっ!!
予想もしていなかった出来事に、航は思わず尻餅をついてしまった!!!

キシャーッ
!!!

航は尻餅をついたまま、慌てて弓を構えるが間に合わない!!

もうダメかと思ったその時!!
ドスッ!
ドサッ!!

なんと!ライハルトが投げた「門番の槍」が、「モンスターと化した盗賊」を直撃した!!!

と、その時!
一瞬の隙ができたライハルトを凄まじい冷気が襲った!!
ぐおっ!
隙を突かれたライハルトはその直撃を受けてしまった!
ぐっ!
攻撃を受け、跪坐いたライハルトが叫んだ!!
「お前は逃げろ!振り返らず全力で走るんだ!!」

航は一瞬迷った...が、
(オレ1人だけ逃げるなんてできる訳ないじゃないかっ!!)
航は「アドベンチャーボウ」を手に立ち上がった!

ごおぉ...
そこには、黒髪が逆立った物凄い形相の航がいた!!

「な、なんと!あの風の渓谷の時と同じだっ、こいつは...?なんという殺気なんだっ⁉」
膝をついて痛みを堪えているライハルトが微かな畏怖を覚えた。

ボウを構えながら航はヴァンパイアを探した。
(あいつ、屋根の上にいたはずなのに、また姿を消した...)
航は左側に転がっている盗賊の死体を確認した、また生き返るかも知れないからだ。

その時、ライハルトの背後で空間が歪み始めた!

あいつだっ!ライハルトさん!後ろにあいつがっ!!!」
航は「アドベンチャーボウ」を構えながら走り出すと、滑り込みながら矢を放った!
ビュンッ!!
しかし、放った矢が命中する直前!ヴァンパイアは再び空間の中へと消えた!!

航はその隙を見逃さず、ライハルトに駆け寄ると、傷付いたその体を起こした。
「だ、大丈夫ですか⁉」
ライハルトは痛みを堪えて立ち上がると、辺りを警戒しながら答えた。
「ああ、なんとかな、だが右腕が使い物にならん...」

ふと、航は奇妙な違和感を覚えたが、それはすぐに解決した。そう、いつの間にか門番の死体がなくなっているのだ。
「ライハルトさん、さっきの死体がなくなってる...」
「なにっ!?いつの間に!!」
ライハルトは死体がなくなった場所を確認しつつも、ヴァンパイアを探した。
「また屋根の上にいるな」
見るとヴァンパイアは、腕をかざし攻撃体制をとっている。
「今はあいつが先だ!魔法がくるぞ!」

シュゥーッ!!
ヴァンパイアが放った魔法が強烈な冷気を帯びて二人に襲い掛かった!!
それを2人は左右に飛び退きギリギリでかわした!

だが、二人の動きには鈍さがあった、それもそのはず、ライハルトは腕に重傷を負っているからだ。
一方、航は無傷だが、同じく動きが鈍かった。
それは雨の中、羽織った布のローブが動きを妨げていたからだった。
(水を含んで重くなった布が邪魔だな...。それに、さっきは布の端を踏んで転びそうになったし。だってさ、普段はジーンズにスニーカーなんだ、こんな格好には慣れてないよ、脱いでしまおうか?)

だがまてよっ!その時オレはメチャクチャ大事なことを思い出したっ!!
そう、何を隠そうオレは「パンイチ」だったんだっ!!!
ここでヒーローになる訳にはいかないだろう!!!
いやっ!そんなこと言ってる場合じゃない...。死ぬかも知れないんだぞっ!ふざけてる場合かっ!!!

...よし。

降り頻る雨の中、クルッと回ってオレはローブを脱ぎ捨てた!

ワハハッ!!
そこには「パンイチ」で愛用の弓、「アドベンチャーボウ」を構えるオレがいたんだっ!!!

よし、マジで冗談はこのくらいにしておこう...。
さあ、動きやすくなったぞっ!
オレは改めて屋根の上にいる吸血鬼と対峙した。

「ライハルトさん、オレ、分かっちゃったんですよね」
肩を抑えて立ち尽くすライハルトが耳を傾けた。
「なにがだ?」
「あの吸血鬼、どこの空間からでも現れるわけじゃないんです、ずっと気になってたんだけど、法則性があるんですよ」
「ほう、なかなかの洞察力だな。では、奴が現れる場所は決まっていると?」
「そうです、今、証明してみせます!」
そう言いながら、航はヴァンパイアに向けて矢を放った!
ビュッ!

航が放った矢の狙いは正確だったが、ヴァンパイアはそれを難なくかわすと再び姿を消した。

(よし、最後はあそこから出てきた、また元に戻るとすると...。
次はあの柱の近くだ!)
航は片膝立ちの最高の射撃体勢でヴァンパイアの出現を待った、それはまるで、標的を確実に仕留めるスナイパーのようだった。
その時、航の予想通りの場所で空間が歪み始めた!
「オレの読み通りだ、いくぞっ!」

...と、その前に!
みんなっ!ちょっとだけ待ってくれっ!!そう、オレのこの攻撃を「精密射撃」と名付けたいんだっ!!!

よーし、頑張って弓の腕を磨いたんだ!正確に命中させるぞ!

そこに、両腕で空間をこじ開け、赤い目とキバが現れた!

今だっ!
ビューンッ!...ドスッ!!
航が放った最高の射撃が見事にヴァンパイアの眉間にヒットした!
ギャアーーーー!!!
不気味な、聞き慣れない音域の叫び声をあげ、ヴァンパイアはその場から姿を消した。

「や、やった...今度は急所にヒットさせたぞ」
航は雨で濡れた顔を拭った。

「見事だ、これで奴はしばらく現れないだろう」
降り続く雨の中、ライハルトは、ぼろきれを口と動く方の手を使って巻き、傷付いた腕の手当てをしていた。

「え、しばらくって?もしかして倒せてないとか...?」
「うむ、奴は不死だ。試したことはないが、聞いた話によると殺すには首をはねるしかない。いや、正確には、殺すというよりは活動を停止させるには、と言ったほうがいいか」

ゴクッ
その話を聞いて、オレは生唾を飲み込んだ。
「じゃあ、何度でも蘇る...?」
「そうだ、不死族には再生能力がある、完全に倒すには肉体を消滅させるしかない」
ライハルトは腕の治療を終えると「パンイチ」の航に言った。
「お前、その恰好はやめておけ。それと、その宝石は見えないように隠しておくんだ」
「え?このネックレスを...!?」

ライハルトは落としていた剣を拾うと鞘に収めた。
(しかし、この少年はいったい...?今はさっきまでの殺気がなくなっている...)

航は脱ぎ捨てていた布のローブを再び羽織った。
(雨に濡れて体力を消耗してる、早く温まらないと風邪を引いてしまうぞ)

航はその時、首から下げたネックレスが温かな光に包まれている事に気が付いた。

「な、なんだこれは...?母さんのネックレスが光ってる!?」

 

 

 

 

 

 

アルテニルの風 〜青い瞳の少女〜 現実と異世界のはざまに

16話 はしゃぐ小鳥亭 イルサ編

闇に包まれた草原を、松明を片手にイルサは急いでいた。

「シャル、ゴメンね、約束の魚を獲る時間がなくなっちゃった」
「ううん、ちょっとだけアクシデントがあったからねっ」
「村に着いたら何か食べましょう」
「うん、賛成っ!」

イルサは走りながら、腰に下げているはずの短剣に手を伸ばした。
「それに、武器を失ってしまった、村で手に入るかしら」

その時、空からポツポツと雨粒が落ちてきた。
「雨が降ってきた、急がないと」
遠くに見える村の明かりを目指して、イルサは更に急いだ。

村に着くとイルサは、扉の外から合図をした。
コンコンコン
「すみません、中に入れてもらいたいの」
すると、木で作られた小窓が開き、中から髪がボサボサで髭もじゃの顔が現れた。
その髭もじゃの男はイルサを見るなり、「お?」という表情になった。おそらく、「美しい少女」がこんな時間に外にいる事に驚いたのだろう。
「ほう、こんな時間に外で何してたんだい?」
「旅をしてきたの」

ガチャッ
ギイイー
中からカギを開ける音がすると扉が開いた。
「さぁ、入りな」
「ありがとう」
その時、門番が小さなシャルに気付いた。
「おいおい!その小さいのはもしかしてっ⁉」
「友達よ」
「と、友達っ....⁉」
門番は初めて見る「妖精」に驚きを隠せずにいた。
「ねぇ、門番さん、何処か食事ができる所はない?」
「あ、ああ...それなら、その先にある「はしゃぐ小鳥亭」に行くといい」

イルサは髪をかきあげながら門番にお礼を言った。
「ありがとう」

2人は門番に教えてもらった「はしゃぐ小鳥亭」に向かった。
「なにあのおじさんっ!わたしのことジロジロ見ちゃってさっ!!」
「フフッ、きっとシャルが珍しいのよ」
「ふーん、そうなんだねっ!珍しいっていいことなの?」
「さぁ、どうかしら」
イルサは可笑しそうに肩を揺らした。

イルサとシャルは薄暗い路地を、少し先に見える灯へと向かった。2人が向かったのは村の中央にある「はしゃぐ小鳥亭」。

大きな建物が見えてきた。

ギイィ
重い扉を開けると、店の中は賑やかな談笑に溢れていた。右手には獣の皮を敷いた上に、大きな樽が並べられているカウンター、中央には大小いくつかのテーブルがある。
店の中には15.6人の客がいたが、人間はもちろん、その中にはドワーフの戦士もいた。不思議なことに、そのドワーフを含め、4人が座っているテーブルだけは何故か他と雰囲気が違っていた。

1人の村人らしき男がイルサの肩に座る「妖精のシャル」に気付くと、こんな声が聞こえてきた。
村人A「おい!妖精がいるぞっ!!」
村人B「なぁにー?そんなの何処にいるんだよ?」
酔っ払いの男は最初、疑いの目を向けたが、実際に目にすると一気に酔いが醒めた。
村人B「...おっ?ほんとだっ!よ、妖精だぞ!!」
店の中がザワザワとざわめいた。


そんなことは気にする様子もなく、シャルはイルサの肩を離れてパタパタとカウンターに飛んでいく。
「はぁーっ、おなかすいたぁっ!」
カウンターの向い側には、この店の主人だろうか?初老の男が皿を片付けていた。イルサはカウンターの椅子に腰かけると銅貨を2枚置いた。
「おじさん、シチューを1つちょうだい。それと取り皿を1つ」
「ほう、妖精かい?こいつは珍しいな」

作り置きしてあるのか、すぐに「豆と、何やら動物の肉を煮込んだシチュー」が出された。
「はい、シャル」
イルサはシチューを取り皿に分けた。
するとシャルはクンクンと匂いを嗅ぎながら、「いっただっきま〜すっ!」と言って夢中で食べ始めた。

「おじさんはシャルを見てもあまり驚かないのね?」
「俺は前にも見た事があるからな、と言っても遠い昔のことだが」
「え?シャルのほかにも妖精が...!?ねぇ、シャルっ!シャルの仲間が何処かにいるかも知れないよ!」
「モグモグッ、ふーん、そうなんだぁ?」
食事に夢中のシャルは、とくに興味がないのか他人事のように返事をした。

「冷えたエールもあるが?どうするね?」
「それはなに?」
「酒だよ」
「いらないわ、代わりにお水を貰える?」
すぐにグラスに入った水が出された。
店主が要領のいい人間なのか、この店はなんでもすぐに出て来る。

(ここは旅の人もたくさん集まる所だわ、このおじさんに聞けばなにか分かるかも?)
「ねえ、おじさん、ここから東の国境近くで、最近になって異変が起きてるのは知ってる?」
イルサは敢えて聞くのではなく質問してみた。
「おい、あんたどこでその話を!?」
「知ってるのね?」
その時イルサは背後に気配を感じて振り返った!するとそこには、先程の戦士らしきドワーフの男が恐ろしい表情を浮かべて立っていた。
「お前さん、その事を訪ねて一体どうするつもりなんだ?」
「調べに行くわ」
イルサが金色の髪をかき上げながらそう答えると、今度はカウンターの向こうで片付けをしていた店の主人が言った。
「悪い事は言わない、やめておけ。あんたみたいな娘がどうこう出来る問題じゃないんだ」
「どういう事なの?」
すると、ドワーフの仲間らしき男が寄ってきた。
「オレたちはな、その異変を調べるために城から派遣されて来たんだ。だが厄介な事になっちまった。先に向かった先発隊が誰一人として帰って来ないのさ」

屈強なドワーフが続けた。
「いや、1人だけ荷物持ちの男が戻ってきた、体中を引き裂かれ、全身に酷い火傷を負った瀕死の状態でな」
イルサはそれを聞いて一瞬戸惑い言葉を失ったが、
「それで、その人はどうなったの?」
「今は村の教会で手当てを受けているが、おそらくもうダメだという事だ」
「そう...。お気の毒だわ。だけど、いったいそこで何があったの?」
イルサは当たり前のような質問をした。
「うむ、その男が言うには、空間の裂け目から業火を纏った悪魔が現れたそうだ」
「悪魔...?」
「ああ、恐ろしい姿をした悪魔だ、先発隊の1人は、その姿を見ただけで絶命したと言っている」
「そんな...」
「最近ではこの辺りにも普段は見かけない魔物が現れるそうだ、それもその異変と関係があるのかも知れん」
すると更にもう1人の弓を持つ男が近づいて来た。
「オレ達は城の兵士じゃないんだ、金で雇われた傭兵だよ」
「それで、オレ達の中で話が分かれているんだ、金の為に命を賭けるか、それともここで降りるか」

ザザーッ!
外では降り続く雨が激しさを増していた。

食事に夢中だったシャルが初めて口を開いた。
「イルサ、どうするの?」
イルサはシャルの問い掛けには答えず、何か考え事をしているようだったが、
「調べに行くわ」

すると店主が再び口を開いた。
「娘さん、これだけ言ってもわからんか?」
イルサは雨が降り続く窓の外を見ていた。

傭兵たちの1人が緊張した面持ちで話し始めた。
「お嬢さん、全滅した先発隊というのは訓練された城の兵士だ。恐らく、実力的には俺達と同等かそれ以上だろう、その兵士達があっという間に全滅したんだぞ?お嬢さんのその「か細い手」で何ができるというんだ!?」

その時、食事を終えたシャルが、イルサと傭兵たちの間に割って入った。いや、割って飛び入ったというのか?
空中でホバリングしながらシャルは言った。
「おじさんたちっ!知らないのねっ!イルサはすっごく強いんだよっ!おじさんたちが束になったって勝てないんだからっ!!」

「おお、本物の妖精をこんな近くで見れるなんて...」
傭兵の1人が初めて見る妖精に驚きを隠せないでいた。
もう1人の傭兵がシャルの話に関心を寄せた。
「ほう、ではお嬢さんは魔法でも使うのか?」

イルサは相変わらず、何かを考えるように窓の外を眺めていた。

傭兵のバカにしたような言い方にシャルは、
「ここに来る途中だっておっきな怪物を倒したんだからっ!」
「大きな怪物だって?それは妖精さんより大きかったんだろ?」
「ワハハハッ!」
「ガハハッ!」
数人の傭兵はバカにしたように笑った。

しかし、リーダーらしきドワーフの戦士は、その話に対して真剣に耳を傾けていた。
「小さいお嬢ちゃん、その怪物はどのくらいの大きさだったんだ?」
「えっとね、このお店と同じくらいの大きさだったよっ!ねっ!イルサ!?」
イルサは頬杖を付いたまま、雨が降りしきる窓の外を眺めて何かを考えていた。

トロールサイクロプスじゃないか?」
弓の傭兵が言う。
それに対してドワーフは、
「いや、トロールはそこまで大きくはない、話からするとサイクロプスだろうな」

「ワッハッハッ...ハ...?」
まさかこんな娘が...と、バカにしていた傭兵が、笑うのをやめて深刻な表情で言った。
サイクロプスだと!バカな!!俺たち全員で挑んでも倒すことはできないぜ!?それをこんな娘が倒しただと!?」

「と、とにかく俺は降りるぜ!まだ死にたくないからな!!」
「俺もだ、大金は惜しいが命あっての物だ!」
「ここで降りても報酬の3分の1は貰ってるんだからな!俺も下りるぜ!」
傭兵たちは次々にこの案件を降りていった。

残ったのはリーダーらしきドワーフの戦士だけだった。そのドワーフの戦士が、
「お嬢さん、本当にその異変を調べに行くなら、俺を仲間に加えてくれないか?」

シャルがいつもの定位置に戻ってくると、
「イルサッ、おじさんがなにか言ってるよっ!!」
窓の外を眺めながら何か考え事をしていたイルサは、ふと我に帰り、ドワーフの戦士に向き直った。
「ええ、あなたがいいなら一緒に行きましょう」
「よし、決まりだな」
そう言ってドワーフは、自慢の戦斧を肩に担いだ。

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アルテニルの風 〜青い瞳の少女〜 現実と異世界のはざまに

イルサは新たなスキルを覚えた。

イルサ LV6
種族 人間

辺境の地アルテニルの森で育った少女。
金色の髪と青く澄んだ瞳が特徴的。
美しく可憐なその姿に誰もが振り返るが、ひとたび戦いになると、金色の髪は逆立ち、髪に隠れた耳は尖り、青い瞳は漆黒の色に変わる。
その詳細は謎。

フリルの付いた白のチュニックに、美しい体のラインが際立つパンツスタイル、足元には、軽く、それでいて丈夫なブーツを履いている。肩から下げた小さなポシェットには色々な物を入れられる。

使い慣れた長さ1.5フィート(約46センチ)の短剣は、サイクロプスとの戦いで失った。
装備は軽くて丈夫な革の胸当て。この胸当ては女性のそれに合わせて形成してある。

所持品:シャルと2人分併せて、皮の水筒、皮の袋に詰められた木の実。松明、寝るための毛布、宝石の首飾り。
戦利品の巻物、ポーション。これらの効果はまだ不明。

ステータス
HP 165
Str 8
Int 12
Vit 6
Agi 13
Cha15
Luk13

スキル
「イージス」
密度の違う大気を瞬時に混ぜ合わせ、 光を異常屈折させて幻影を作り出す。「ニュクスイルシー」を発動するには、先に「イージス」を展開させる必要がある。

「ニュクスイルシー」
スキル、「イージス」が強化されたもの。自分そっくりの幻影を創り出す。このスキルを発動させたイルサは、強力なモンスター、サイクロプスを撃退した。

 


成瀬 航LV1
種族 人間

西暦2019年、眠りから覚めたワタルは見たこともない世界にいた。ここは、どこか中世のヨーロッパを思わせる。最初は夢だと思っていたが、あまりのリアルさに、冗談を言う暇もなくなっていた。

現在の装備は、丈夫な木で作られた弓矢「アドベンチャーボウ」ボクサーパンツの「パンイチ」に布で作られたローブを着ている。

ステータス
HP 85
str 11
Int 10
Vit 12
Agi 8
Cha10
luk 14

所持品:母の形見である宝石のネックレス

スキル
「精密射撃」
弓矢を引き絞り、距離はもちろん、重力や風、更には気温まで計算して正確に対象を撃ち抜く。


シャル LV2
種族 妖精

妖精にはさまざまなイメージがあるが、この世界の妖精は手の平に乗るほどの小さな生き物だ(推定15.6センチほど)その背中には羽根がある。
シャルの容姿は、一般的に想像される「妖精」とは違い、人間の女の子がそのまま小さくなったイメージだ。

まだ赤ん坊のイルサが森で拾われた時に一緒にいたシャルは、イルサよりもずっと長く生きている為、この世界の事についてそれなりの知識がある。
食いしん坊で怖がりな性格と、飛べるのに何故か高い所が苦手な不思議ちゃん。
だが、いざという時には役に立つ。
この生き物は年齢による身体の変化がないようだ。

ステータス
HP 17


ライハルト LV35
種族 人間

オークに襲われそうになっていたワタルを助けた歴戦の戦士。
大人の背丈ほどの大剣を携え、チェインメイルを装備している。

HP 329
str 18
Int 11
Vit 18
Agi 8
Cha10
luk 7

スキル
「オーバーブレイク」
横殴り、または袈裟懸けに強力な攻撃を加える。その一撃はアイアンメイルさえも破壊する。

 

15話 はしゃぐ小鳥亭 ワタル編

夜の帳が下りる頃、ワタルとライハルトは「ガナイの村」に到着した。
この村は、外敵から守るように、削った丸太や木の板を利用して防衛されていた。
ドンドン
「おい、門番はいるか?旅をして来た。2人だ、村の中に入れてもらいたい 」
ライハルトは門を叩いた。

しばらくして門の横にある小窓が開き、中から門番の男が顔を出すと、すぐに引っ込んで中から鍵を開ける音がした。
ガチャンッ
すると重たい扉が開く。
ギイイー

「村の中で厄介ごとは起こすなよ」
ボサボサの髪に無精ひげ、そして前歯が欠けている門番が言った。

ライハルトとワタルは村の中央に向かった。

しばらく歩くと目の前に二階建ての真っ黒な建物が現れた。

「はしゃぐ小鳥亭」
入り口の看板にはそう書いてあった。

ギイィッ
そこはロウソクで照らされたカウンターと、いくつかのテーブルがある古い店だが、村人や、旅の疲れを癒す戦士達で賑わっていた。

「今夜は酒でも食らって休むとするか」
ライハルトがカウンターに腰掛けながら言った。
「オヤジ、エールを2つだ!」
ライハルトが銅貨を2枚カウンターに投げた。すると、この店の主人だろうか、カウンターにいた初老の男が2杯のエールを出した。
「さあ飲め、オレの奢りだ」
(エールって確かビールみたいなものじゃ?)
「あの、オレは未成年なんですけど?酒は飲みませんよ」
「なに?酒を飲んだ事がないのか?」
「そりゃあ、ないですよ。だって高校生なんだから」
ワタルのその言葉を他所にライハルトは一気にグラスを空けた。
「ふむ、お前は時々不思議な言葉を使うな。まぁ、いい。オヤジ、こいつに水を一杯やってくれ」

出された水を飲みながらオレは店の中を見回してみた。
テーブルには旅の戦士だろうか、毛むくじゃらでガタイの良い、「北欧のバイキング」が被るようなヘルムの男がいる。座っている椅子に立て掛けてあるのは両刃の斧だ。
もしかしてあれがドワーフ⁉、まさか本物を見れるなんて!

おや?あの慌ただしく食事なんかを運んでいる女性は...スラっとして背の高い、それでいて耳が尖っている、もしかして、あれがエルフか!?
凄いぞ!ホントに映画なんかで観る光景だっ!

店の中は相変わらず賑わっている。
ふとその時、店の奥でこちらを見ている男がいる事に気が付いた。

「ん?ライハルトさん、あの奥にいる人は知り合いですか?」
「さあな、オレたちが店に入ってきた時から、ずっとこちらを伺っているな」

ライハルトさんも気付いてたんだ...。何だろう、この違和感は。

オレ達はあとになって、その違和感の正体を知る事になる。

「そろそろ行くとしよう」
ライハルトは剣を手に立ち上がると、奥の男とは目を合わせずに出口へ向かった。
「ちょっとまって!何処に行くんです?」
「馬小屋だよ」
ライハルトは振り向きもせずに言った。

ザーッ!
外はいつの間にか激しい雨が降っていた。

「付けて来ているな」
「え?誰がです?」
「さっきの男さ、酒場にいただろう」
ライハルトが振り向きもせずに言った。
ワタルは後ろを振り返った、しかし、誰も居ない。

「あのオレたちをずっと見ていたあの人?」
そんな航にライハルトが言った。
「相手はプロだな、距離を置いて付けて来ている」
「いったい何の目的で?」
「わからん、だが、オレの勘だが...。おそらくお前のその宝石が目当てだろう」
ワタルは首から下げているネックレスを手に取った。
「これが?」
「そこの角を曲がったらお前は隠れろ。オレはヤツに聞きたいことがある」